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自由が丘・自由日記


気の向くまま、ひとりごと。
by nattsu358
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パリ回想 vol8  「foyer du vietnam」


母は、ホテルで朝食をとり、午前のうちからモンパルナス・タワーへ
買い物へ行くとはりきって出かけていった。
私はレンヌ通りのカフェでカフェ・クレームだけ飲んでから、
今日は一日思い出の場所をひとしきり歩くことに決めた。

だんなにメールを出したかったので、インターネットカフェを探しがてら
まずはリュクサンブール公園まで行くことにする。
ここは相変わらずパリの人たちの憩いの場所だった。
やっぱりすごくすてきな公園だった。
パリ回想 vol8  「foyer du vietnam」_b0005864_19255865.jpg
パンテオンの裏手に学校があったので、その辺まで行ってみる。
これまたすごく懐かしい。

あの頃はとても貧しかったので、昼休みは寒い学校の廊下でサンドイッチをかじったあと、
カフェのバーで安くカフェを立ち飲みして済ませていたりした。
そのカフェの前を久しぶりに通る。

それから、5区のムフタール街まで歩いた。
とてもお腹がすいたので、どこかでお昼を食べようと探したけれど
なかなかどこもひとりで入る気になれず、結局モンジュの駅まで来てしまった。
さてどこで食べようか、と考えながら歩いているうちに
このそばにおいしいベトナム料理店があったことを思い出した。


パリ回想 vol8  「foyer du vietnam」_b0005864_19262814.jpg
駅を通り過ぎて少し歩いたところに、そのベトナム料理店は変わらずあった。
名前はfoyer du vietnam。質素な看板と店構えはまったく変わってなかった。
相変わらず地元の人たちで大繁盛していた。
ひとりで入るのに少し躊躇したけれど、
もう一度、懐かしいあの味を味わってみたかったので入ることにした。
お昼の定食が安くて美味しい。
やっぱりここもよく恋人と来たお店だった。

小さなテーブルに案内されて、サイゴン・スープと鶏肉炒めを頼んだ。
まさか一人でこの店に来るなんて、あのとき誰が予測できただろう。
今でもあの子がここの店に来ることはあるのだろうか?と、
考えても仕方ないことをまた考える。
そのとき、背中の丸くなったお婆さんとおじいさんが私の目の前の席に合い席となった。
ただでさえ小さなテーブルなので、なんとなく居心地が悪くなる。
センチメンタルに浸っているような環境ではなくなる。
なんとなく不愉快。ひとりでランチを楽しみたかった。心の狭い私が出てくる。

そんなとき、おばあさんが

「お水はいかがですか?」

と声をかけてくれた。

「ありがとうございます。はい。下さい。」と私。

そのうち食事が運ばれてきて、3人でだまってひたすら食べた。

おばあさんが、帰り際、私にこう話しかけた。

「もうパリには長いんですか?」

地元色の強いお店なので、きっと暮らしている者に見えたのだろう。

「いいえ。観光できているんですよ」

「そうですか。私たちの国、とても美しいでしょう。
きれいなものがたくさんあるので、どうぞパリを楽しんでくださいね。」

そういって席を立たれた。
なんだか、とてもありがたいようなあったかい気持ちになった。
あの頃は、向かいの席にいつも恋人がいた。
今日は知らないおばあさんたちの顔があった。
沈んでいた気持ちに、少しあったかい光が照らされたような瞬間。
もしかしたらおばあさんは、私が沈んだ顔でご飯を食べているのを見たのかもしれない。

私は、この国のもつ特有の飾り気のない庶民的な感じが好きだ。
いろんな人種が暮らしていて、街によって、少しずつ色が違う街。
とても質素で地味に暮らしている人たち。
今の東京の生活ではなかなか出会えない、下町的な情緒とか
人と人との触れ合いとかがこの街にはたくさんある。
どこか田舎っぽいような人間関係に私はいつも安心感を覚えた。

日に日に少しずつだけど、過去に縛られていたパリから
新しいパリへと、自分の意識が変わっているのを感じた日だった。

○5区のベトナム料理店 フォワイエ・デュ・ヴェトナム foyer du vietnam
80 rue Monge / 75005 Paris
Place Monge.
tel 01 45 35 32 54.(Ouvert de 12h à 14h et de 19h à 22h.)
by nattsu358 | 2004-10-21 19:31 | パリ回想
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