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自由が丘・自由日記


気の向くまま、ひとりごと。
by nattsu358
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わたしの結婚式


3年前、わたしはバリ島で結婚式を挙げた。
お金のほとんどかからないちっちゃな簡単な結婚式。
入籍してから半年たってからのことだった。

その教会はジンバランに位置する
たぶん外国人向けに建てられたセレモニー専用の小さなチャペルで
わたしたち家族だけのひっそりとした30分のインスタント挙式だった。

結婚式には、レンタル衣装、ヘアメイクのほか
ブライダルエステ、聖歌隊の歌などが盛り込まれているパックだった。
式場までは、宿泊していたホテルまでの送迎も含まれている。

まず新郎新婦である私たちが午前のうちに
ピックアップされ、ブライダルエステサロンへと向かった。
わたしたちの格好は、短パンとTシャツ。
これから一生に一度の挙式をあげる身とは思えない格好。

さて気になるブライダルエステ。
この激安値でいったいどんな内容のエステがついているのか
疑問に思っていたのだけれど、やはりその不安は的中していた。

名もないような町ともいいがたい村の一角で
突然私たちを乗せたバンはとまった。

階段を上るとそこは誰もお客のいないひっそりとした美容室。
ガランとだだっぴろくて薄暗いフロアには
もう最近では見かけない頭ごとかぶるタイプのヘアドライヤーが
何台か並んでいて、とても質素な鏡と椅子がおいてあるだけ。

店員のこれまた質素な感じの女の子が
「こちらへどうぞ」
と私を奥の硬いベッドに案内してくれる。

そのとき店内に濃いめのメイクをした見知らぬ男が入ってきた。
顔を見るとバリニーズではない感じで
ジャワかタイの人なのか、とにかく完全なおかまだった。
メイクをしたおかまを、この島で見るのは初めてだったので少し驚いた。

そのおかま氏に、だんなが奥の部屋につれられていくのを見て
あまりの怪しさに思わず噴出しそうになる。
だんなもかなり笑いそうだったが、後ろ姿が不安そうだった。
一体だんなは何をされるのだろう?

一方、硬くて冷たいベッドに寝かされた私は、不安な気持ちのまま
バリニーズブライダルエステを受けることに。

まずホットタオルで顔全体を覆ってもらってから、マッサージが始まった。
なんのオイルだか、ねっとりとした懐かしい油の香りが漂う。
それは昔私が小さい頃に母親の使っていた
“コールドクリーム”(たぶんポンズ)という名のクレンジング剤の匂いだった。

それから毛穴の汚れを、信じられないような固い金属の
引っかき棒のようなもので、掘り起こされる。
一体何年前のエステ技術なのだろう。
しかし、小心者の私はまな板の上の鯉情態で断ることができない。
それからメリットみたいなシャンプーで洗髪してもらう。
シャワーはほとんど水だった。
されるがままの状態で、ブライダルエステが終わりほっとする。
引っかかれた鼻の頭が少し赤くなってひりひりしていた。

レジのところへ行くと、ひげと髪を短く切られただんなが
つるんとした顔でソファーに座っていた。
彼もなぜか噴出しそうな笑いをこらえている。

何かがおかしい。
やっぱり世の中すべてにおいて、価格に比例しているのだということを
改めて思い知らされる。
この時点で少しずつ後悔の念が胸をよぎる。

再び店をあとにしてバンに乗り込む。
おめでとう~と美容室の村娘たちに見送られる。
なぜか、例のおかま氏も私たちと一緒にバンに乗り込んでくる。

チャペルの事務所に到着し、
そこで着替えとヘアメイクが始まった。
おかま氏は、ヘアメイク担当のお兄さんだということがわかる。

私は東京から持参した、「こんな感じにしてほしい」という
見本の雑誌の切り抜きを彼に見せた。
髪の毛は、行きに寄ってきた台北で見つけたステキな美容室で
結婚式のためにショートに切ってきたばっかりだった。
ショートヘアに生花を飾る程度のナチュラルな感じのヘアにしたかった。

けれどもおかま氏はそのセンスがどうしても理解できない感じ。
彼は髪をアップにしない花嫁なんて見たことがないと言った。
つけ毛をつけてぐんと大人っぽいアップヘアにしたいと言い張る。
そして数々の彼が手がけたアジア各国の花嫁の写真アルバムを見せられる。
どれも一昔前の韓国女優といった感じで、私の思い描くイメージとぜんぜん違う。
一生に一度の結婚式、小心者の私も
さすがに意志を曲げるわけにはいかない。

いろいろ相談しあった結果、わたしの言う
ちゃんとショートヘアのまま、セットしてくれることになった。

そして、メイク。
私の雑誌の切り抜きは、ベージュ系のナチュラルメイク。
もうこれは写真どおりにしてくれと頼むしかなかった。

だけど、できあがった私の顔は能面、あるいは鉄仮面のように白く、
きっちりと濃いブラウン系のメイクがほどこされていた。
もうあきらめるよりほかなかった。
いわゆるバリ化粧。センスが根本的に違っていた。
もしかしたら彼はナチュラルメイクたるものを見たことも
聞いたこともないのかもしれない。

        ***

帰国後、結婚式の写真を見た親友が、
「これ、40代初婚のヒトじゃないよね?」
とからかって聞いてきた。
悔しかったけど、笑うしかなかった。

また、母は今頃になって

「リッツカールトンで結婚式挙げりゃあよかったよね、
あたしがお金出してあげたらよかった~。
なんで頼んでくれなかったの?」
(みんなでリッツに泊まっていた)

とさかんにいっている。
そりゃないぜ、おっかさん。

ていうか、こんな笑いものになるんだったら
いっそバリニーズ式結婚式に
すりゃあよかったよ!!
バリげしょうに、村人をお借りして、お神輿にかつがれ、
だんなも赤い口紅ぬってサ。
おもいきり笑えるタイプにサ。

一生に一度の挙式。
世の女性らが、なぜあんなに真剣に、ゴージャスに
取り組むのかを、身をもって知りました。
by nattsu358 | 2006-03-19 16:04 | バリ島
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